現磨山葵
【讀音】すりわさび
【英文名】Freshly Grated Wasabi
擦りワサビの主役は、日本固有の植物·本ワサビ(学名:Eutrema japonicum)だ。山間の清冽な水辺だけに根付く繊細な植物で、静岡県·長野県·島根県が主な栽培地として名を連ねる。チューブ入り練りワサビの大半はセイヨウワサビ(ホースラディッシュ)が主体だが、擦りワサビはこの本ワサビの根茎をそのまま使う点で本質的に別物だ。
調理の要となるのが鮫皮おろし(さめかわおろし)という専用器具だ。表面を埋めつくす微細な突起がワサビの繊維を均一にほぐし、きめ細かなペースト状へ仕上げる。口あたりの滑らかさや芳醇な香りはこの器具ならではの産物であり、寿司職人の間で長く愛用が続く理由もここに集約される。
おろした直後の擦りワサビは、鋭い辛さの底にほのかな甘みを宿し、透明感のある清涼感が鼻腔を走り抜ける。しかし香味の減衰は驚くほど速く、職人は握りの直前にごく少量だけをおろす手法を厳守している。江戸前鮨の世界ではシャリとネタの間にわずかな量を忍ばせ、素材そのものの旨味をさらに際立たせる仕掛けとする。
根茎の茎側を始点に円弧を描きながらゆっくりすりおろすと、辛味と芳香のバランスが保ちやすい。何世代にもわたって職人が伝承する所作の一つだ。


