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寿司辞典

Sushwalker

「寿司」「鮨」「鮓」の違い

「すし」という言葉には、いくつかの漢字があります。

「寿司」や「鮨」は日常的に目にしますが、その違いはなんでしょうか。
さらに「鮓」という漢字も「すし」と読みます。

寿司の歴史と深く関連するこれらの漢字について、それぞれの意味や違いについて解説します。

寿司の起源をざっくり

寿司の歴史は古く、さかのぼると東南アジアあたりの山岳地帯の民族が魚を長期間保存する方法として使っていた、ご飯や塩などを使って魚を発酵させる「熟鮓(なれずし)」と言われています。日本でも古くから「すし」が作られていた記録が残っていて、8世紀から10世紀にかけての文献にはすでに「すし」という言葉が見えます。

当時の寿司は私たちがイメージする寿司とは異なり、自然発酵を利用した馴れずしでした。馴れずしは、古代から近代にかけて日本ではよく食べられていた保存食だったのです。

当然、長い歴史の中ではいくつかの変遷を遂げてきました。

たとえば室町時代には、それまでは馴れずしの原料のひとつでありながら口にすることがなかった飯を食べる、という習慣が広まりました。17世紀には、現在の押し寿司の原型が生まれたといわれています。

海外でSUSHIとして知られるようになった握り寿司をはじめとするすしは、19世紀初頭に江戸で誕生したものです。
せっかちな江戸っ子は馴れずしのような時間がかかる料理を好まず、酢飯に生の魚を乗せただけの時短料理として、握りずしを考案したのでした。

現在の寿司も、古来の伝統を引き継ぐ馴れずしと、酢で酸味をつける早ずしの2種の系統に大別することができます。
一般的によく食べるのは握り寿司や押し寿司、いなり寿司に代表される早ずしですが、鮒寿司や鮎のなれ寿司などの郷土料理は、馴れずしの名残として各地に残っているのです。

すし、寿司の語源

すし、寿司の語源

すしという言葉の語源は、どこにあるのでしょうか。

すしの語源となったのは、紀元前3世紀ごろの中国の「酢(サ)」と「鮓(シ)」という言葉でした。前者は魚の塩辛であり、後者は魚の貯蔵品であったと伝えられ、これが日本に渡来し「すし」という言葉に転化したというのが通説です。

日本では「鮓」「鮨」「寿司」「寿志」「寿し」など、さまざまな感じが当てられてきましたが、「鮓」と「鮨」以外はすべて、江戸時代中期以降に使われたものです。また室町時代には、宮廷における雅な女房言葉のひとつとして「すもじ」や「おすもじ」も、すしを表現する言葉として残されています。

時代によって変わる「すし」

それでは、古くから伝わる「鮨」とは具体的にどのようなすしを指すのでしょうか。

すしを表す漢字も、時代によって流行があったといわれています。

すしが日本に定着し始めた8世紀ごろの文献では、「鮓」という文字が主流でした。鰒鮓 (あわびすし)、貽貝鮓 (いがいすし)などがその代表です。一方10世紀ごろには、「鮨」という文字が大半を占めるようになります。「鹿鮨」「猪鮨」といった文字が、10世紀の『延喜式』に残されているのです。

中国などでは「鮨」が本来持つ意味は、魚醤であったとされています。

しかし現在の日本では、「鮨」はいわゆる魚を使った江戸前寿司を指すことが多くなりました。実際、寿司店の看板にも「鮨」の文字がごく普通に書かれています。古代から使われていた「鮨」の文字が、握り寿司が誕生した時代にも使われていた名残というわけです。

「鮓」の語源

「鮓」の語源

「鮨」と並んで古くから使われているのが「鮓」です。
寿司は東南アジアの保存食だった「酸っぱい魚」が中国を経て稲作と共に日本に伝わったというのが通説ですが、「鮓」は紀元前の中国の漢字辞典にみえる”漢”字です。

日本に伝わった当初は「馴れずし」を指す言葉として使われていましたが、馴れずしが変化して「握りずし」が誕生した後も「寿司」「鮨」などと共に「握りずし」を指す言葉として使われています。こうした経緯から現在も「鮓」は「馴れずし」を指す言葉として使われることがあります。

「馴れずし」は三重県の鮎の馴れずし、滋賀県の鮒ずし、石川県のかぶらずしなどが代表的で、古代から続く日本のすしの伝統を伝えています。

「寿司」と「鮨」の違い

「すし」を表す漢字の中では、現在は「寿司」がもっとも一般的です。

「寿司」という漢字は、江戸時代中期以降に生まれました。
縁起のよさをかついだ当て字ですが、「鮨」との違いはあるのでしょうか。

その相違は諸説ありますが、「寿司」がいわゆる世界にも広がった多様性を含むすし全般を指すのに対し、「鮨」は魚介と酢飯を使った伝統的なすしを表すというのが通常のようです。

「寿司」の中のカテゴリーのひとつが「鮨」というわけですね。

「寿司」と「鮓」の違い

「寿司」と「鮓」の違いは、思いのほか明確です。

「寿司」はすしを包括した呼び方になりますが、「鮓」はいわゆる発酵食品であり、保存食としてのすしを指します。独特の風味を持つ「鮓」は、「寿司」のなかでも最も古いすしのひとつと捉えられます。

まとめ

それでは、「寿司」「鮨」「鮓」の違いをまとめてみましょう。

寿司 江戸時代中期以降に生まれた言葉であり、寿司全般を包括する言葉
一般的に魚介と酢飯で構成される早ずしを指す言葉
塩と米、魚介類を発酵させた保存食としてのすしを表す言葉

こうしてみると、一口に「すし」といってもさまざまな種類があることがわかります。
日本の重要な食文化であるすし、これを機会にぜひ見直してみたいものですね。

参考資料

小学館ニッポニカ「すし」

平凡社世界大百科事典「酢・鮨」