2025年ミシュラン総括〜世界のOMAKASE市場を比較して見えたもの

寿司検定 公式サイト

寿司は世界で最も普及した日本食であり、いまや世界中のレストランやスーパーマーケット、テイクアウトなど、様々な場所で気軽に食べることのできる世界の料理SUSHIとなっている。
しかし一方で、「OMAKASE」「高級寿司」という市場に目を向けると、その成立の仕方には地域差がある。

なぜ同じ寿司なのに、ある都市では三つ星が生まれ、ある都市では一つ星で評価が止まるのか。
本特集では、2025年版ミシュランガイドをもとに、世界各地のOMAKASEや高級寿司を同じ評価軸で比較することで、OMAKASEがどこでどう成立しえるのかを考察する。

前提として、ミシュランは何を評価しているのか

まず前提として抑えておきたいのは、ミシュランは人気や売上はもちろん、単純な味だけを評価しているわけではないという点だ。

ミシュランは飲食店を評価する上で、素材の質や料理技術の高さ、味付けの完成度と独創性、そして安定した料理全体の一貫性を重視している。
これは、寿司にとって有利な点もあれば、不利な点もある。

寿司、特に本格的な高級寿司は、文化的背景や寿司への理解がなければ価値が伝わりにくい料理だ。
つまりミシュランは、寿司を測れる文脈が整った都市でしか評価されにくいという点については理解しておく必要がある。

この前提を踏まえたうえで、まずは数字を見てみよう。

ミシュラン掲載寿司店の地域別比較(2025年12月)

国・地域別二つ星以上の寿司店リスト

日本

★★★
はるたか(東京)

★★
西麻布 鮨 真(東京)
鮨 かねさか(東京)
すきやばし次郎 六本木店(東京)
鮨 原正(大阪)

アメリカ

★★★
Sushi Sho(ニューヨーク)

★★
Masa(ニューヨーク)
Sushi Noz(ニューヨーク)

香港

★★★
Sushi Shikon

シンガポール

★★
Sushi Sakuta
Shoukouwa

掲載店数の差は何を意味しているのか

上の表が示しているのは、世界的に見れば、寿司はミシュラン掲載数としては決して多くないジャンルでありながら、特定の地域では外食文化の中核を担う存在になっているということである。
東京・バンクーバー・カリフォルニアでは、掲載店に占める寿司比率が8%を超え、寿司が地域の日常的な高級外食として定着していることが分かる。

一方、ヨーロッパ全体では掲載母数が非常に大きいにもかかわらず、寿司比率は0.24%と極端に低く、寿司がミシュランの評価軸において主流ジャンルとして位置づけられていない現状が、数値として可視化されている。


日常食として定着しているバンクーバーのSUSHI

二つ星以上の比率に目を向けると、ニューヨーク・香港・シンガポールが突出しており、これらの地域では寿司が数の多さではなく、高価格帯の体験価値として評価されやすい市場構造を持つことが読み取れる。

また、カリフォルニアやバンクーバーなどの一つ星の寿司店が多い地域は、一定水準以上の寿司を受け入れる高価格帯の市場が成立している一方で、価値の序列や評価基準がまだ固定化されきっておらず、OMAKASEなどの高級寿司の市場としては発展途上の段階にあるといえる。

ロンドンやパリ、ベルリンなど、掲載店数が多いのにも関わらず二つ星以上が全く存在しない地域では、寿司そのものの質の問題というよりも、寿司の価値が最高評価に値するものとして共有されにくい構造が存在していると考えられる。

このように、ミシュランの星の数の分布は寿司の人気だけでなく、その地域が寿司をどう理解し、どの価格帯・文脈で消費しているかを映し出す指標であり、ミシュランという共通言語を通じて、世界の高級寿司市場の成熟度と性格を浮かび上がらせている。

各地域の市場構造を読む

それでは、ここで各地域ごとの高価格帯の寿司市場の特徴を見てみよう。

日本

OMAKASEや寿司発祥の地であることから、世界の基準点となり掲載店に占める寿司比率も高い。
寿司は特別な料理ではなく、料理文化の中核であり、比較対象が多いことから評価の精度が自然に上がる土壌が出来上がっており、二つ星以上の店も生まれやすい構造になっている。

ニューヨーク州

寿司は日常食というよりも、体験型ラグジュアリーとして消費される存在である。
500USDを超える高価格帯のコースを受け止める富裕層・グローバルな顧客層が厚く、価格そのものが価値の一部として機能している。
二つ星以上の比率が非常に高く、寿司を「頂点の料理」として評価できる審美眼と市場環境が整っている点が特徴だ。
結果として、数は限られるが影響力の大きい、少数精鋭型の高級寿司市場が成立している。

カリフォルニア州

掲載店の寿司比率は8.84%と高い水準にある一方、二つ星以上の寿司店は0であり、評価は一つ星に集中している。
これは寿司が日常化し、多様性・創作性・カジュアルさが市場価値の中心になっているためだと考えられる。
市場規模は大きいが、ミシュランが重視する「技術の完成度を競い合う環境」が生まれにくく、高級寿司が二つ星以上へ押し上げられる圧力が弱い構造となっている。

ヨーロッパ(全体)

ヨーロッパでは、寿司店の掲載比率は0.24%と圧倒的に低い。これは寿司店が存在しないことを意味しないが、ミシュラン評価の主流ジャンルとして寿司がほとんど組み込まれていないことを示している。
一方で、掲載店は一定数あり、一定水準以上の高価格帯の寿司市場は成立している。
注目すべきは、二つ星以上は0、一つ星店も非常に少ないという点だ。ヨーロッパでは寿司の価値が「頂点の料理」として共有される段階に至っていないことが分かる。

香港

寿司店の数自体は少ないものの、二つ星以上の比率が非常に高い。
富裕層が集中し、外食において高価格帯を前提とした消費行動が明確に成立している。
寿司は日常食ではなく、明確にステータス性を伴う高級体験として位置づけられている。
そのため、少数精鋭であっても超高級寿司が成立しやすく、評価が上位に集中する市場構造を持っている。

シンガポール

シンガポールもまた香港に近い都市型の外食構造を持つ市場である。
多国籍料理が競合する中で、高価格帯の外食が前提として受け入れられており、寿司もその文脈に置かれている。
寿司は「和食の一ジャンル」ではなく、高級料理の選択肢の一つとして明確に認識されている。
その結果、二つ星以上の評価に到達する寿司店が生まれやすい環境が整っている。

バンクーバー

掲載店に占める寿司比率は非常に高く、寿司自体は地域の外食文化に深く根付いている。
一方で、二つ星以上の寿司店は生まれておらず、評価は一つ星に集中している。
寿司はローカルフードとして定着し、消費量・鮮度・親しみやすさが重視される。
そのため、非日常性や緊張感を伴う高級体験として評価されにくく、ミシュランが求める上位評価に結びつきにくい構造となっている。

OMAKASEとして世界で成功する鍵

ここまでの流れから見えてきたのは、2025年版ミシュランが示しているのは、寿司そのものの優劣ではなく、寿司が「評価される市場」と「消費される市場」は必ずしも一致しないという現実である。

高級寿司として成功するためには、味や技術、サービスの完成度だけでは不十分であり、その価値が理解され、比較され、正当に評価される市場の土壌が不可欠と言えるだろう。

高級寿司が成立するかどうかは、職人の技量やサービスはもちろんだが、それ以上に高級寿司市場の成熟度や価値観の共有に左右されると言えそうだ。評価される土壌を備えた地域や都市に根を張ることこそが、OMAKASEで国境を越えて成功するための鍵と言えるだろう。

<文・寿司ウォーカー編集部>

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