寿司屋の開業方法1〜個人経営かフランチャイズか?個人経営の寿司屋がとるべき戦略とは
多くの人々に愛されているお寿司。
最近では外国人にも非常に人気が高く、国内外で需要が高まっています。
今回はそんな寿司屋の経営について、経営形態の違いによるメリット、デメリット、またそれらを踏まえた上で個人経営店がとるべき戦略について解説します。
寿司屋の経営形態による違い
寿司屋には多くの形態がありますが、経営形態の区分として個人経営、フランチャイズ店、チェーン店などがあります。
また、運営形態はカウンターをメインにした小規模な高級志向の寿司屋、テーブル席や座敷をある程度用意した大衆的な寿司屋、価格帯を抑えた回転寿司、持ち帰り専門店などがあります。
ここではそうした寿司屋の形態に着目しながら、メリットとデメリットを見てみましょう。
個人経営の寿司屋のメリットとデメリット
寿司屋での現場経験があったり、飲食店の経営についてある程度知見があったりする場合は、一般的に個人経営という選択肢が適しています。
個人経営のメリット
個人経営のメリットは、フランチャイズ本部への支払いが必要ないこと、本部の意向に左右されない自由な経営が可能であること、成功したときのリターンや喜びが大きくなることなどです。
個人経営のデメリット
デメリットは、全て自分で用意しないといけないため、事前準備、設備投資、人材採用、調達ルート、経営計画などを全て自分で行う必要があり、経験値がある程度ないと厳しいといえます。
現場での経験があり、職人としての能力値が高くても経営は別の能力であるため、常に自ら学びながら経営力を磨く必要があるでしょう。
回転寿司を開業したい場合
回転寿司を開業したい場合は少し特殊です。
個人経営でも不可能ではないですが、回転寿司は効率的な仕組みや価格設定、調達力が重要な要素であるため、小規模展開を前提とした個人ではなかなか難しい面もあります。
人件費とFL比率
寿司屋を開業する場合は、必ずしも自分が寿司職人になる必要はなく、募集をかけて採用する方法もあります。その場合、当然人件費がかかるので、FL比率には十分注意する必要があります。
FL比率とは、食材費と人件費の合計を売上で割った比率で、一般的な飲食店では通常60%以下が適正で55%で経営状態が良好とされますが、寿司屋は原価が44%程度と高いため、これに10%足す形になります。
こうした数値は常に正しいわけではありませんが、数字を意識した経営は、飲食店に限らず安定した経営を行うために必要な要素です。
フランチャイズ店のメリットとデメリット
寿司屋についての知見があまりない場合、フランチャイズ加盟も選択肢の一つとしてあがってくるかもしれません。
フランチャイズ店のメリット
開業や運営に関するノウハウの提供や本部による指導があるため、知識がないオーナーでも始めやすいこと、ある程度知名度やブランド力があるケースが多いので、最初から顧客を獲得しやすいこと、調達ルートや設備など仕組みが最初から整っているので、準備で失敗するリスクが低いこと、購買などで個人店よりもスケールメリットが出しやすいことなどです。
特に回転寿司は単価設定が低く、効率的な仕組みの構築によるコスト削減が必須になってくるため、回転寿司を始めたい場合は、フランチャイズに加盟するのが一般的といえます。
フランチャイズ店のデメリット
デメリットとしては、本部への加盟金やロイヤリティーの支払いが必要なことで、ノウハウの提供料としてサポート費や研修費として100〜200万円の費用がかかるケースも多くあります。3000万〜1億円以上と初期総費用が高額になるケースも多く、個人にはハードルが高いといえます。
また、基本的に本部の意向に左右されるので自由な経営ができないこと、自由経営ができないことによって経営戦略の選択肢が減ること、成功した時のリターンや喜びが個人経営の時よりも低い傾向にあることなどです。
さらに、第三者である本部に経営の重要部分を委ねる形になるので、場合によっては致命的なダメージを受ける可能性もあることは認識しておく必要があります。将来的に費用の変動がどれくらいあるのか、自分の店の近くに直営店を出店される可能性がないかなど、契約更新後のことも含めて契約内容を慎重に確認する必要があるでしょう。
寿司屋の業界事情と市場変化
寿司屋の倒産件数は、東京商工リサーチの「すし店の倒産年度推移」によると、2012年までは30〜50件ほどでしたが、2013年から2022年までは20〜30件ほどと減少傾向にあります。
コロナ禍の時期も同様なので、他の飲食業が倒産件数を過去最多を記録することが多いなかで、寿司業界は比較的善戦しているといえます。
これはしっかり感染対策を行いながら柔軟な経営をおこなった寿司屋の努力や政府による補助金があったことなどが背景にありますが、テイクアウトや出前も需要が多い寿司は、外部環境の変化にも比較的対応しやすい業種であるともいえるでしょう。
一方、2001年は70%ほどだった個人経営店が2022年には大幅に減少しており、その背景にはスシローやくら寿司といった大手回転寿司チェーン店の拡大があります。
現在の寿司業界の売上7割以上は大手回転寿司チェーントップ4社が占めるなど、寿司業界は大手回転寿司チェーンの寡占状態になっているということは、開業前に頭に入れておいた方が良いでしょう。
個人経営の寿司屋がとるべき戦略とは?
寿司業界が大手回転寿司チェーンの寡占状態にある中で、個人経営の寿司屋がとるべき戦略は、これらといかに差別化するかという点が重要になってきます。
当然、価格勝負では勝てないので、大手回転寿司チェーンにない利点を存分に活かす必要があります。
大手回転寿司チェーンにはない利点を踏まえた上で、個人経営の寿司屋がとるべき戦略について説明します。
対面接客とサービスの質を上げる
大手回転寿司チェーンにない利点の一つ目は、対面接客を積極的に活用できることです。
大手回転寿司チェーンは機械化によっていかに業務効率を良くするかという点に焦点を当てているので、対面による温もりのある接客は行いにくく、職人のいないロボット系大手回転寿司チェーンでは、ほぼ不可能ともいえるでしょう。
そのため、個人経営店での対面による接客やサービスは大きな利点となります。
常連顧客との会話やアットホームで来店しやすい雰囲気づくりなどを積極的におこなって、顧客に対面接客の良い店であることをしっかりアピールしていきたいところです。
また、接客ではないですが、キープボトルを置いて行きつけのお店感を出すのも、対面接客のメリットを活かせる一つの方法です。
職人としてネタとシャリの品質を追求する
もう一つの大手回転寿司チェーンにない利点は、寿司としての品質にこだわることができるということです。
最近の大手回転寿司チェーンのほとんどは、ロボットやアルバイトによる加工によって寿司を提供しています。
仕入れの効率化や工夫などによって寿司ネタになる魚介類そのものの品質は上がっているかもしれませんが、機械によって均一に加工されたネタは、大人や玄人には、物足りないと思われることも多いでしょう。
また、ロボットが握るシャリも以前に比べると進化したものの、均一化しすぎたシャリはやはり不自然で、人肌でしっかり握った職人のシャリと比較すると、まだまだ品質には差があるといえます。
そのため、寿司職人としてネタとシャリの品質にしっかりこだわることは、大手回転寿司チェーンとの競争で生き残る上で重要なポイントになるといえます。
メインターゲットの明確な差別化
上記に挙げた個人経営店の利点を活かしても、全く勝てない場合があります。それはターゲット設定を間違え、大手回転寿司チェーンのメインターゲット層と被った時です。
特に子連れ家族や安価な寿司が好きな層をメインターゲットにしてしまうと、完全に被る形になるので、厳しい闘いになるのが容易に予測できます。
この二つの層は接客や品質をいくら良くしても、大手回転寿司チェーンには中々勝てないので、ターゲットから外した方が良いでしょう。
今は周囲に大手回転寿司チェーンがないので、生き残ることができていても、大手回転寿司チェーンが近くに出店したら確実に致命的な打撃を受けてしまいます。
逆に、子連れ家族をターゲットとしている大手回転寿司チェーンがやりづらいこと、例えばお酒を飲みやすい雰囲気を作るなど、大手回転寿司チェーンのメインターゲット層が求めるものとは異なる部分を追求して、差別化を図るのがよいでしょう。
海外顧客の獲得
これは個人経営に対してだけではなく、フランチャイズ店でも必要なことといえますが、コロナ禍が収束して、多くの訪日外国人が訪れることが想定されています。
日本を訪れる外国人は寿司好きが多いため、訪日外国人を取り込むことで利益を拡大することができます。
外国人といっても欧米だけでなく、中華圏などのアジア系の外国人にも寿司は大人気です。
特に日本に来るアジア系外国人は富裕層が多く、欧米系の外国人よりも寿司に対して惜しみなく消費する傾向にあります。
外国人に来店してもらいたい場合、品質だけでなく演出も大きなポイントになります。
外国人は見た目的な派手さや日本らしさを好む傾向にありますので、日本らしい店構え、寿司づくり体験、解体ショーなどは良いアピールポイントになる可能性があります。
また、こうした取り組みはSNSで拡散してもらいやすいというメリットもあります。
お店のSNSやユーチューブ、ホームページなどでも積極的にこうした取り組みを発信して、しっかりブランディングしていくのも効果的です。
このようなカスタマイズされた試みはフランチャイズ店では実施しにくいため、個人経営店の強みになります。
他店との差別化にもつながるので、積極的に色々試してみると良いでしょう。
一つ注意点は、海外顧客中心の経営はリスクがあるということです。
コロナ禍だけでなく何らかの要因で外国人顧客が急に来なくなる可能性がないとはいえませんので、そうしたことを念頭に顧客層の分散を図るなどのリスクヘッジも、安定した経営に必要な要素です。
個人経営の寿司屋にもチャンスがある!
個人経営による寿司屋を開業する場合は、大手回転寿司チェーンとの差別化戦略がマストになってきますが、個人経営ならではの対面接客やサービス、人肌による質の高い寿司へのこだわり、カスタマイズされた自由な経営などでしっかり差別化することで、大手回転寿司チェーンにも負けない店づくりを行うことができます。
また、寿司は海外でも大人気です。訪日外国人を取り込むだけでなく、海外へ2号店を出してみたり、最初から海外で開業するというのも魅力的な選択肢といえるでしょう。
国内外で人気の寿司は、方法によっては大きなリターンを得られる可能性がある業種です。
寿司屋の開業に興味のある方は、しっかり経営計画を立てながら開業準備して、愛される寿司屋づくりにチャレンジしてくださいね。