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寿司偉人伝①伝説の鮨職人・小野二郎 (すきばやし次郎 )

寿司好きの中には、「小野二郎」あるいは「すきやばし次郎」という名を耳にしたことがある方も多いかもしれません。

小野二郎(敬称略)は、江戸前寿司の名店「すきばやし次郎」の創業者で、90歳を超えた今も現役で、その一徹な職人としてのスタイルと寿司職人としての腕前は国内外から大きな評価を受けています。

ミシュランガイドでは10年連続三つ星を獲得、数々の有名料理人からの高い評価、ドキュメンタリー映画の主人公になるなど、世界中でその名が知られる小野二郎とはどのような寿司職人なのか。

今回は、世界に名声を誇る生ける伝説の寿司職人・小野二郎が歩んだ人生や仕事のスタイル、小野二郎が名店へと育て上げた「すきばやし次郎」について特集します。

二郎の生い立ち、すきばやし次郎が誕生するまで

二郎の生い立ち、すきばやし次郎が誕生するまで

小野二郎は大正14年(1925年)、静岡県浜松市天竜区に生まれ、2023年時点で97歳。

小野二郎の父は材木を運ぶ船の船頭でしたが、昭和恐慌により生活が苦しくなったことから二郎は親戚に預けられ、その1年後に7歳という幼さで丁稚奉公に出されることになりました。

小野二郎が奉公に出された先は、地元で一番といわれた料亭、割烹旅館「福田屋」。小学校に通いながら掃除や出前、皿洗いなどを行い、毎日深夜まで働き続けました。自身の述懐によれば、当時から彼は非常に不器用で、なにをやっても時間がかかるため怒鳴られてばかりの日々だったといいます。

丁稚奉公時代は倒れるようにして眠り込むことも多かったという二郎の少年時代ですが、二郎自身は他に行く場所がなかったし、辛いと思ったことは全くなかったと語っています。こうして、厳しい環境に耐え抜いた二郎は「福田屋」で和食料理屋で働く基礎を身につけることになります。

その後、16歳で軍需工場に徴用されますが、終戦後は浜松の割烹料理屋で板前として働き始めました。しかし、自分の店を持つことが夢だった二郎は、独立する時に準備するものが比較的少ないように見える寿司を仕事として選ぶことになります。

25歳の時に寿司の三大名店といわれた東京・京橋にある「与志乃」に入店。江戸前鮨の名手と謳われた吉野末吉に弟子入りします。念願の独立を果たしたのは1965年で小野二郎が40歳の頃、15年もの修行を経た上での独立でした。

わずか15坪の店ですが、このときから日本を代表する江戸前鮨の名店「すきばやし次郎」の歴史が始まることになります。

一徹な二郎スタイル

一徹な二郎スタイル

二郎握り

小野二郎の寿司は、「二郎握り」という独特の握り方をすることで知られています。

二郎は左利きで、さらに子供の頃からかなりのレベルと自認しているほどの不器用。そんな理由から、弟子入りした二郎は当初、本手返しという伝統的な握り方が上手くできず苦心したといいます。

しかし、生来の仕事好きで探究心に富む二郎は、余った酢飯やおからなどを使ってひたすら練習に励み、独自の握り方である「二郎握り」を編み出します。手を持ち替える本手返しではなく、寿司を手の上で転がして返すことで、握りのスピードを上げるもので、外側飲みを固め、内部は柔らかい食感であることが特徴。寿司は握りたてが一番うまいとスピードにこだわる小野二郎ならではの握り方ともいえます。

握り方は、ネタによって力の調節を行います。たとえばイカならば少し強め、マグロや穴子は柔らかくするなど。この度合いが絶妙で食通たちをうならせる小野二郎の寿司が誕生したわけです。

寿司ネタの温度や握る順番、握るまでの準備、徹底的に清潔に保たれた店内など、細かな準備と工夫にいとまがない小野二郎。自身の手もまた、商売道具として、非常に丁寧に管理しており、高齢となった現在も年齢を感じさせない美しい手を保っているので有名です。

小野二郎の寿司へのこだわり

二郎握りを生み出した小野二郎ですが、握りに対してだけでなく、寿司全般に対して自身のこだわりを持っています。それがこの3つ。

1. シャリは人肌に

二郎握りにとって、シャリは寿司の中で最も大事な要素。

すきばやし次郎では、客の来店30分前までに米を炊き上げ、温度を一定に保つようにしています。シャリの温度を人肌に保つことにより握りの味が安定する、というのが小野二郎の考えであり、実際にすきばやし次郎のシャリの美味しさには多くの著名料理人が舌鼓を打ちます。

2. 強めの酸味

すきばやし次郎のシャリは、酸味が強いといわれます。

酸味が強いシャリこそネタと一体感を出すことができるという二郎の哲学。夏は特に酸味が強めになるといいます。

寿司ネタの適切な管理

寿司職人としての仕事の9割は握る前に終えているという二郎。すきばやし次郎で使用されるそれぞれのネタに応じた温度を保つだけではなく、「手当て」と呼ばれる仕込みにも多くの手間をかけます。ネタを見極めて、その美味を最大限に引き出すために、酢や塩で締めるなどの準備がすきばやし次郎の寿司の味を高めているのです。

すきばやし次郎の「おまかせ」

小野二郎の寿司には、もうひとつ特徴があります。それは寿司20貫の「おまかせ」コースで一貫していること。半世紀に渡る経験をもとに選び抜かれた20貫が、二郎スタイルなのです。

握る順番、ネタやシャリの温度も考慮して提供される「すきやばし次郎」の「おまかせ」は、素材の無駄がないという点においても、近年の環境思想に合致しているとも評価されています。

飽くなき追求心と徹底した習慣

7歳で奉公に出てから90年近く働き続け、働くことは楽しいので仕事を辞めることはないと語る小野二郎。基本的に現場で手を動かしながら寿司の握りや仕込みについて考えるのが二郎スタイルですが、じっとしているのは苦手といい、プライベートでも至高の鮨づくりのための努力工夫を欠かしません。

自宅がある中野から店がある銀座まで徒歩で出勤するなど、つけ場に立つ体力維持を兼ねたワーキングをしたり、家族とともに有名店や話題のレストランを訪れて味覚の感性を養ったりするなど、まるで全てが至高の鮨作りのためなのではないかというほど徹底しています。

世界中から名声を得ながらも、まだもっとおいしくする方法があるのではないか、どうしたらおいしくなるのかと、毎日ひたすら考えて工夫を重ねていると語る小野二郎。こうした飽くなき探究心と習慣の積み重ねが、小野二郎という至高の寿司職人を生み出す要素となっているのは間違いないでしょう。

世界のJIRO

世界のJIRO

「すきばやし次郎」が開店してしばらくすると、1994年にヘラルド・トリビューン・インターナショナル誌で世界のレストラン第6位に選出。2005年には厚生労働省から「現代の名工」として表彰されるなど、小野二郎の鮨に対する情熱と技術、そして芸術性は、日本の伝統文化の一部として、国内外で高く評価されていきます。

ここでは小野二郎と「すきばやし次郎」の功績の一部を見ていきましょう。

ミシュランで三ツ星の連続獲得とギネスブックへの登録

すきばやし次郎の功績といえば、2007年に日本で初めて出版されたミシュランガイド東京で三つ星を獲得し、それ以降も一般客の予約ができなくなったことを理由に非掲載にされる2019年版まで10年以上連続で三つ星を獲得し続けたことが挙げられるでしょう(現在は一般予約可)。

また、2019年にギネスブックは小野二郎を「ミシュランの3つ星レストラン最高齢料理長」として認定しましたが、小野二郎は2023年4月現在も現役であり、この記録はまだ破られていません。

映画出演、海外セレブたちが競って訪れる名店へ

2011年、アメリカで映画『二郎は鮨の夢を見る』が公開されます。これは小野二郎を中心に息子の小野禎一や小野隆士、弟子たちを描いたドキュメンタリー映画で、本人らも出演しています。

この映画が公開されたことで、評判は国境を超えて広がり、ハリウッドスターをはじめとする著名人が次々と訪れるようになりました。安倍晋三元首相とオバマ元大統領が会食した店としても知られる「すきばやし次郎」ですが、これはこの映画を観たオバマ氏自身の強い希望で決まったようです。

国内外からの賞賛と海外の実力派シェフたちとの交流

映画をきっかけにその実力が広く世界に知れ渡った小野二郎。2011年にはスペイン・バレンシア州政府から「お米を使った優れた料理人」として表彰され、2014年には秋の叙勲で黄綬褒章を受章するなど、その名声の広がりは止まることを知りません。

また、ミシュランの星を30個以上獲得しているフランス料理の巨匠であるジョエル・ロブションも「すきばやし次郎」を絶賛する常連であり、盟友として、ライバルとして、それぞれの店に行き合うなど30年近く交流を続けています。

江戸前鮨の名店「すきばやし次郎」

江戸前鮨の名店「すきばやし次郎」

さて、ここまでは偉人伝として小野二郎という人物に焦点を当ててきましたが、鮨の名匠である小野二郎氏が育て上げたすきばやし次郎とは、どんな寿司店なのか、実際に行くにはどうしたらいいのか、特徴や予約方法、ドレスコードなど、ここからはお店としてのすきばやし次郎について見ていきたいと思います。

すきばやし次郎と系列店

1965年創業のすきばやし次郎本店は、カウンター席のみの小規模な寿司店です。同店にメニューはなく、季節や状況に合わせて小野二郎氏と長男の禎一氏が選ぶ20貫の「おまかせ」を提供するのがスタイルです。

現在、銀座の本店は小野二郎氏と長男の小野禎一(よしかず)氏が仕切り、次男の小野隆士氏は六本木店を担当しています。小野二郎氏のもとには世界各国から支店を出す話が来ているようですが、本人は品質管理できる目が届く範囲であることにこだわっているため、系列店は東京にとどまっています。

小野一家が仕切る本店と六本木店のほか、日本橋の高島屋内に1店、暖簾分けされて開店した豊洲店と4店が展開されています。

不思議な名前の由来

ところで、二郎という名前なのに、なぜ「すきやばし二郎」ではなく「すきやばし次郎」なのか気になった方もいるかもしれません。これは、二郎氏自身が「次郎の方が店の看板なんかに書いたときに格好がいいから」と理由をあげています。

寡黙な寿司職人として知られる小野二郎氏ですが、粋な部分も垣間見えるほんわかするエピソードですね。

すきばやし次郎の値段と予約

すきばやし次郎の値段は銀座本店で食べる場合は、20貫で55000円から。

六本木店になると少し価格が下がり、ランチが25000円から、夕食は35000円からとなり、暖簾分け店の方は五千円以下のセットなど、本店や六本木店よりも価格帯がだいぶ下がります。

基本的にお店はカウンター席しかないため、予約が必須で、予約は電話受付のみです。海外から予約する場合は、日本の宿泊先のコンシェルジュを通しての予約だけを受け付けているため、注意が必要です。

なお、特に厳しいドレスコードはありませんが、常識的な服装が求められており、客の大半はジャケットで来店し、襟なしのシャツや短パン、サンダルでの来店は控えるよう店のHPに記載されていますので、あまりにラフな服装で行くのは避けた方がよいでしょう。

また、すきばやし次郎に限りませんが、こうした寿司ネタにこだわった高級寿司屋に行く場合は、繊細な寿司ネタに悪い影響を与える香水は控えた方が良いでしょう。

すきばやし次郎の店情報

すきばやし次郎は現在、系列店を含めて4店があります。それぞれのお店の情報を見ていきましょう。

すきばやし次郎 銀座本店

すきばやし次郎の創業者である小野二郎氏と長男の小野禎一氏によって切り盛りされているのが、銀座の本店です。予約が困難な人気店ですが、一生に1度は本店で寿司を味わいたいという方も多いことでしょう。
他の支店とは違い、カウンターだけの小規模なお店ですが、至高の寿司をぜひこちらで。

店名:すきばやし次郎
住所:東京都中央区銀座4-2-15 塚本総業ビルB1階
Googleマップ:https://goo.gl/maps/g5AUrUA6fPgW4UVZ8
TEL:03-3535-3600
HP:https://www.sushi-jiro.jp/

すきばやし次郎 六本木店

現在、系列店の中では唯一ミシュランの2つ星を獲得しているすきばやし次郎六本木店は、小野二郎の次男である小野隆士が店主です。
六本木ヒルズという場所にもマッチする端正な寿司は、父親譲りのあくなき探求心から生まれたもの。
モダンな店内で受け継がれた二郎握りをご賞味あれ。

店名:鮨 すきばやし次郎
住所:東京都港区六本木けやき坂通り3F
Googleマップ:https://goo.gl/maps/wZh76F9bXoZUM6dk9
TEL:03-5413-6626
HP:https://www.roppongihills.com/gourmet_shops/0138.html

すきばやし次郎 日本橋店

ロブションや帝国ホテルなど名だたる名店が支店を出している日本橋の高島屋。
すきばやし次郎の日本橋店も、高島屋内にあります。

お弟子さんの暖簾分け店で、盛り合わせで5000円以下という価格も魅力です。

店名:鮨処 すきばやし次郎
住所:東京都中央区日本橋2-4-1日本橋高島屋S.C. 7F
Googleマップ:https://goo.gl/maps/LzYT7q96NJY4q5Tf9
TEL:03-3211-4111
HP:https://www.takashimaya.co.jp/nihombashi/specialtystores/shop/300006

すきばやし次郎 豊洲店

本店で12年修行を積んだ弟子が初めてのれん分けされた店が、すきばやし次郎豊洲店です。
本店に比べると価格がリーズナブルで、1日25食限定のランチは1400円。すきばやし次郎の味を気軽に味わえるのが嬉しいところです。

店名:すきばやし次郎 豊洲店
住所:東京都江東区豊洲4-10-1-102
Googleマップ:https://goo.gl/maps/cREce2E61MfhXA969
TEL:03-3534-8400

小野二郎の生き方を観る!

小野二郎の生き方を観る!

世界的に知られるようになった小野二郎の生き方は、海外のドキュメンタリー映画やNHKのドキュメンタリー番組にもなりました。

小野二郎の職人としての一徹さ、探求心の深さ、好奇心など、道を追求する職人の姿からは多くのことを学ぶことができます。人生の先達としての生き方をぜひご覧になってみてください。

映画『二郎は鮨の夢を見る』

詩的なタイトルが印象的な『二郎は鮨の夢を見る』は、アメリカ人の映画監督デヴィッド・ゲルブによって撮られたドキュメンタリー映画です。小野二郎が握る寿司の味に驚嘆し、職人芸やスタイルに感動した監督によって2011年に公開されました。

生きる伝説と化した小野二郎を、弟子でもある2人の息子たちを通じて描いた傑作で、一家族の肖像として見ても感慨深い作品です。アマゾンプライムやネットフリックスなどのオンラインでも視聴可能。

寿司を機軸に繰り広げられる美しいドラマをお楽しみください。

映画『二郎は鮨の夢を見る』(アマゾンプライム)

映画『プロフェッショナル 仕事の流儀 修行は、一生終わらない 鮨職人 小野二郎の仕事』

さまざまな分野で活躍する第一線のプロフェッショナルたちの仕事を徹底的に掘り下げるシリーズの第4弾として、2008年1月8日に放送された当時82歳の小野二郎氏に密着したドキュメンタリー番組です。小野二郎氏が鮨についてどのように考え、どんな想いで仕事をしてきたのかが描かれています。

本特集でも紹介した「フランス料理界の帝王」ことジョエル・ロブションとの真剣勝負もお見逃しなく!

映画『プロフェッショナル 仕事の流儀 修行は、一生終わらない 鮨職人 小野二郎の仕事』(アマゾンDVD)

参考資料

Amazon.co.jp | プロフェッショナル 仕事の流儀 修行は、一生終わらない 鮨(すし)職人 小野二郎の仕事 [DVD] DVD・ブルーレイ - 小野二郎

「すきやばし次郎」小野ニ郎の「すし屋の心得」#1 - 料理王国 (cuisine-kingdom.com)

次郎のこだわり - すきやばし次郎 SUKIYABASHI JIRO (sushi-jiro.jp)

二郎は鮨の夢を見る | 映画 | WOWOWオンライン

Oldest head chef of a three Michelin star restaurant | Guinness World Records

鮨 すきやばし 次郎 | 六本木ヒルズ - Roppongi Hills