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江戸前寿司と関西寿司5つの違い、関東と関西の寿司はどれくらい違うの?

関東と関西の寿司

江戸前寿司と関西の寿司はどのくらい違うのかご存知でしょうか?

寿司には握り寿司やちらし寿司、箱寿司など様々な種類がありますが、現在では回転寿司から高級な寿司屋まで、提供される寿司の主流は握り寿司ですね。握り寿司はもともと「江戸前寿司」と呼ばれる江戸時代に出来た東京一帯の郷土寿司です。

もともと江戸だけで食べられていた握り寿司でしたが、明治時代になると、政府が東京の文化を全国に広める政策をとり、それにともなって江戸前寿司も全国に広がっていきます。続いて、大正時代の関東大震災、昭和の太平洋戦争などの災害で東京の寿司職人が地方に避難し、その土地で店を出したことで江戸前寿司が普及していったのです。

さらに戦後、戦後の食糧難が続く中、政府は全国の飲食店の営業を禁止する制度を打ち出します。東京のすし組合がこの政策に反対し、「委託加工」という方法で寿司屋の営業を政府に認めさせます。「委託加工」とは、寿司は飲食店の営業ではなく、「客が持ってきた米を、握りすしという形に変えて渡す行為」として主張したのです。これにより、握り寿司がさらに全国に広まっていきました。

握り寿司が元来江戸の郷土寿司であるように、全国各地にはそれぞれの郷土寿司があります。中でも江戸前とよく比較されるのが「関西寿司」。

では、関西寿司とはどのような寿司を指すのでしょう。代表的なものは、「棒寿司」「箱寿司」「巻き寿司」「蒸し寿司」「柿の葉寿司」などがあります。

棒寿司と箱寿司は押し寿司の一種で、ネタと酢飯を木型や巻きすに敷き詰め圧して作ります。節分の行事として、すっかりお馴染みになった太巻き寿司も広義における関西寿司。蒸し寿司は、ちらし寿司を蒸しあげて作り、冬の京都の風物詩と言われるほど関西特有の寿司です。

他にも「茶巾寿司」など関西独自の寿司がありますが、ここでは最も代表的である棒寿司と箱寿司のような押し寿司を中心にして関西寿司と江戸前寿司との違いを紹介したいと思います。

其の1. 伝統を受け継ぐ関西寿司、革命児の江戸前寿司

一つ目の大きな違いは歴史です。大阪の箱寿司、棒寿司の一種である京都の鯖寿司など、関西寿司はその起源を奈良時代まで遡ります。

寿司はもともとタイ、ミャンマー、ラオスなど東南アジアの一部の地域で、魚を米と塩で発酵させて作る「なれずし」と呼ばれる保存食でした。「なれずし」は一緒に漬けて発酵した米は捨てて、魚だけを食べる魚単体の発酵食品です。東南アジアから中国に渡り、中国から朝鮮半島、それから日本へ伝えられました。

稲作とともに日本へ伝わった「なれずし」ですが、文献に記録が残るのは奈良時代になってから。奈良・平安時代は税として米や食物、地域の特産品を都に納めていました。魚介類を長期間保存出来る「なれずし」は、都への貢物として献上されていました。室町時代になると、「米も一緒に食べられるように」発酵期間を短くした「なまなれ」が登場し、さらに江戸時代になると発酵ではなく、酢を混ぜて作る「早ずし」が生まれます。

「早ずし」は酢を混ぜたご飯に、酢づけや塩漬けにした魚を重ね強く押して作ります。数時間から一晩おき、味が馴染めば食べられます。現在、関西地方で食べられている押し寿司の原型は「早ずし」にあります。関西寿司は、調理して実際に食べるまでに一定の時間を必要とする「なれずし」の系譜にある寿司と言えるのです。

鮒寿司
なれずし一種、鮒ずし(ふなずし)

一方、江戸前寿司は江戸時代に登場したニューフェイス。

江戸時代の1800年代初め頃まで、寿司は「早ずし」が主流でしたが、1820年代頃に江戸の寿司職人、華屋与兵衛によって現在の握り寿司に近い形の寿司が考案されたと言われています。与兵衛はより早く食べられるように、それまでのすし作りの「箱に詰めた食材を押して味を馴染ませる」作業を省き、握ってすぐに食べられる寿司を発明したのです。握った直後に食べられるすしは従来の常識を越えた画期的な商品でたちまち評判になり、江戸の町には握り寿司の屋台が登場し、一大ブームを巻き起こしました。

江戸前は時間をかけながら作るそれまでの寿司と比べて、酢飯の上に煮たり酢で〆た魚介類をのせて握り、作り方も調理時間も従来の寿司とは大きく異なりました。関西寿司が伝統を継承しているのに対し、江戸前寿司は寿司の世界に新たに登場した若き革命児だったのです。

其の2. 保存熟成・持ち運びの関西寿司、フレッシュ&ファーストの江戸前寿司

二つ目の違いは、関西寿司と江戸前ではコンセプトが大きく違っていること。

押し寿司の系譜を持つ関西寿司は、前述したとおり時間をかけ熟成させて作ります。元々、関西の寿司は保存食であるのと同時に、行楽に持参したり、芝居を見る時や行事の際に食べる特別な料理でした。

かたや江戸前寿司は、江戸の庶民が昼ご飯や軽食として食べる日常的なファーストフード。下拵えの時間と手間は別にして、すぐ食べるのを前提に作られました。

コンセプトが関西寿司と江戸前では逆と言えますね。

寿司
江戸庶民のファーストフードだった握り寿司

其の3. 各地の特産品を使った関西、地元の食材主体の江戸前

関西と江戸前では、材料にも地域性があらわれます。

たとえば京都の鯖寿司は、北陸からはるばる運ばれてきた鯖で作った祭りごとで食べるご馳走でした。また、大阪の押し寿司は、北海道の昆布や瀬戸内の魚介類など、日本各地の特産を贅沢に使った寿司。どちらも遠方からの食材を使った特別な料理でした。

一方、江戸前寿司は、その名の通り江戸前の海、今の東京湾近郊で採れる地元の魚介類が中心。現在でも東京近郊で採れた食材を使い、伝統の職人技で作ったものこそ江戸前寿司とされています。江戸前は、ローカルフード主体の寿司だったのです。

鯖の推し寿司
鯖寿司

其の4. 調理法の違い

関西と江戸前とでは調理法も大きく異なります。関西寿司は木型や箱の中に酢飯と魚介類を重ねて圧をかけ、時間をかけて発酵させます。一度で作る量は多く、サイズも大きめ。たくさん作り、切り分けて食べるようにしています。

それに対して、江戸前寿司では一人分ごとに調理し、作ったものをすぐに食べます。酢飯やネタの下拵えなどに手間はかかりますが、食材を発酵させる調理過程がないところに特徴がありますね。

押し寿司
関西地域で親しまれている箱寿司

其の5. 甘め濃い口の関西、あっさりめの江戸前

調理法が違うのですから、味にも勿論違いがあります。関西の寿司では保存性を高め、時間がたっても乾かないようにシャリに砂糖が多めに使われ、少し甘みがあるところに特徴があります。また、シャリの上に乗ったネタも熟成の旨味で濃いめの味付けで満足感ある味わい。

江戸前寿司は一部の具材の下拵え以外では砂糖は控えめです。特に伝統的な江戸前寿司の場合、醤油漬けや炙り焼きにたれを塗ったり、ネタにしっかり下拵えがされ味がついているものが多く、シャリはわりとあっさりめの味付けになっています。

穴子寿司
代表的な江戸前寿司のアナゴ寿司

まとめ

関西の寿司はなれずしを起源とした時間をかけ熟成させて作る押し寿司が主流で、保存性に重きをおき、シャリも甘めの味付けです。それに対して江戸前寿司は誕生したのが1800年代と寿司としての歴史が浅く、押し寿司のように発酵させて作るのではなく、すぐに食べられるようにネタを酢で〆たり焙ったりして握り、シャリも比較的あっさりめの味わいになっています。

関西の押し寿司と江戸前の握り寿司は歴史から作り方、食材や用途、味付けまで違いがありましたね。関東大震災や戦災で江戸前寿司の職人が地方へ非難したり、戦後の食糧難における委託加工対策により、現在では江戸前寿司である握り寿司は全国的に一般的になっています。今や関西でも押し寿司と並んで握り寿司は寿司の主流となっています。

関西でも押し寿司と同じように一般的になった握り寿司ですが、実は同じ握り寿司でも関西と江戸前ではいくらか違いがあります。

江戸前寿司ではマグロやアナゴ、コハダなどをネタとし、特にマグロは欠くことのできないネタとされています。味付けもヅケや酢〆にしたり、魚の旨みを引きだすために身を寝かせたりします。

一方、関西の握り寿司では白身魚のネタが多く、新鮮なうちに素材の味を楽しみながら食べるようです。これは、瀬戸内海で新鮮な白身魚がよく獲れるためで、関西では江戸前のようにネタに一仕事加えるようなことはせず、素材本来の味を楽しむ傾向があるようです。

関西寿司と江戸前寿司では、なれずしの流れを汲む押し寿司以外に握り寿司でもいくつかの違いがあります。それぞれ好みがありますので一概にどちらの寿司が好いのかとはいえませんが、関西寿司と江戸前寿司、それぞれの味わいを食べ比べてみるのも興味深いかもしれませんね。