魚べいや元気寿司を率いるゲンキGDCが仕掛ける国産養殖網プロジェクトが開始

いま、寿司業界が抱える大きな課題のひとつが、国産いくらの品薄と価格高騰、そしてサーモン・真鯛を含む主要ネタの安定供給リスクだ。
国産いくらは、秋サケの不漁、世界的な原材料不足、物流・国際情勢による価格上昇が重なり、深刻な供給不安が続いている。また、サーモンについては輸入依存が極めて高く、為替や国際情勢による価格変動リスクが増している。真鯛についても、全国チェーンで安定的に提供できる体制は課題となっていた。
こうした中、2025年11月25日に魚べいや元気寿司を展開するGenki Global Dining Concepts社 が、「いくら × サーモン × 真鯛」の国産養殖網を本格構築するプロジェクトを始動した。
熊本・八代における「桃太郎サーモン」の技術がいくら養殖へ拡張
本プロジェクトはGenki Global Dining Concepts社が国内の養殖企業と提携することによって実現される。
提携先の一つ目が、熊本県八代市の陸上養殖企業「有限会社ひらやま」だ。
同社が育てる「桃太郎サーモン」は脂のノリ・甘み・透明感のある味わいが評価されており、陸上養殖サーモンの新ブランドとして注目されている。

ひらやまの持つ高度な水質管理・給餌技術を活かし、今回新たにスタートしたのが「国産いくらの陸上養殖」だ。
サーモン養殖と同一基盤でいくらを生産するというモデルを採用。年間40〜60トン規模の国産いくら生産を目指しており、将来的には魚べい・元気寿司を含む全国の同社グループ全店舗での提供も視野に入っている。
サーモン500匹の放流祭、次世代養殖のはじまり
協業開始を象徴する取り組みとして、熊本・八代では サーモン約500匹の放流祭が行われた。
水槽の周囲には、地元関係者やひらやまのスタッフ、Genki Global Dining Conceptsの社員らが集まり、成長と安全を願って一匹ずつ丁寧に放流していく。大型水槽の澄んだ水面に若いサーモンが放たれるたび、参加者から静かな歓声が上がり、養殖場全体に独特の緊張感と期待が漂った。

当日は、地元の神主による祈願も実施された。
水産業にとって“いのち”を扱う養殖は、地域の自然環境と密接につながっている。
神事を通して、地域の文化的な価値観を尊重しながら、企業と地域社会が同じテーブルで未来を語り合う姿が印象的だ。

7年で1000槽へ。国内最大級規模の陸上養殖へ拡大
両社は当初、36槽という比較的小規模なスタートを前提に事業計画を描いていた。しかし協議を重ねる中で、サーモンといくらの完全国産化に対する市場ニーズの大きさと、八代という土地が持つ水質・水量・環境の優位性が再評価され、本格的な生産拠点として育てるべきだという方向性に双方が確信を深めていった。

その結果、計画は大きく舵を切ることになる。7年間で1000槽規模へ段階的に拡大するという壮大なプロジェクトが正式に動き出したのだ。これは国内の陸上養殖としては極めて大きな規模であり、実現すれば年間最大1000トン規模(約26万匹)のサーモン生産が可能になる
近い将来、増設予定地の熊本・八代から日本最大級の国産サーモン・いくら網が生まれることになるだろう。
三重・南伊勢町では真鯛の協業プロジェクトも開始
さらにGenki Global Dining Concepts社は、三重県南伊勢町の老舗養殖企業 株式会社タカスイ と「真鯛養殖」の協業も開始。
南伊勢町は「真鯛の里」として知られ、透明度の高い海のリアス式海岸は真鯛の育成環境として国内屈指のエリア。国産魚の供給網を抜本的に強化するのが狙いだ。

従来、同グループが展開する「魚べい」では真鯛を一部店舗での提供にとどまっていたことが課題だったが、今回の協業による年間 600トン(約30万匹)の真鯛生産により、全国の魚べいで南伊勢の真鯛を楽しめる体制が整うことになる。
国産養殖網の強化が寿司業界にもたらすもの
今回のGenki Global Dining Concepts社による「いくら × サーモン × 真鯛」国産養殖網プロジェクト は、同社の供給課題に真正面から向き合い、地域の養殖事業者と長期的な協力体制を築きながら課題の抜本的解決を行おうとする取り組みだが、同社にとって安定供給を確保するというだけでなく、地域に根差した生産体制を育てていくという、外食企業として責任感ある取り組みの一つとも言えるだろう。
また、国産魚を年間通して確保できる生産基盤の確立は、輸入依存のリスク軽減、生産者との協同による品質の底上げといった国産寿司ネタの比率向上や国産魚の価値向上、サプライチェーン全体の安定化につながる点で、寿司業界全体にとってもプラスの影響を持つ可能性が高い。
今回の協業は、Genki Global Dining Concepts社一社の取り組みにとどまらず、日本の寿司文化の持続性に向けて一つの道筋を示す試みと言えるだろう。今後、本プロジェクトによる国産養殖網がどのように育ち、どこまで寿司業界の安定供給に寄与していくのか。引き続き注目していきたい。
寿司ウォーカー編集部


