寿司の基礎知識①赤身
今回は寿司の基礎知識として、寿司ネタの「赤身」について見ていきましょう。
赤身と聞くとマグロを思い浮かべる人が多いと思いますが、赤身の寿司ネタはマグロだけではありません。マグロだけでも様々な部位がありますし、赤身の切り身を調理して握る寿司もあります。また、白身と思われがちの魚が、実は赤身である魚もいます。
寿司ネタの王道とも言われる「赤身」について学び、寿司の基礎知識を増やしていきましょう。
寿司ネタの赤身とは
寿司では、魚を見た目で赤身、白身、光り物に分類しています。
「赤身」「白身」は、魚の身の色によって区別し、「光り物」は背が青くて腹に光沢がある魚を指します。赤身はその名のとおり、身が赤い魚のことですが、寿司の世界では身肉が赤くても背の部分が青く、腹が白く光っている魚は光り物として扱われます。
なぜ身の色が赤くなるの?
赤身と白身は身の色で区別されていますが、なぜ色の違いが生まれるのでしょうか?
魚の身の色に違いが生まれるのは、筋肉の種類と血液の中にあるタンパク質に原因があります。魚の筋肉を構成する筋繊維は遅筋と早筋の2種類あり、遅筋は「赤筋」、速筋は「白筋」と呼ばれています。
赤筋は長時間に渡って活発に動かせる持久力がある筋肉で、広い海の中を泳ぎ回っているマグロやカツオなどの回遊魚が赤筋を持った魚です。魚も人間と同じように運動するには酸素を必要とします。赤筋には血液の中に酸素を効率よく供給する色素タンパク質「ヘモグロビン」と酸素を蓄える「ミオグロビン」を多く含み、ヘモグロビン、ミオグロビンの色素が赤いため、魚の身も赤くなっているのです。
一方、白筋を持った魚は、回遊魚のように常に泳ぎ回っている魚ではなく、普段は海底に潜んでいたりして、獲物を捕獲する時だけ敏速に動きます。この瞬発力を持った筋肉が白筋で、回遊魚のように筋肉を動かすのに酸素を多く使わないため、ミオグロビンが少なく、必然的に色素タンパク質もほとんどないため、白っぽい身になります。
赤身と白身の分類
魚の身の色が筋肉に含まれる酸素を運んだり貯蓄したりする色素タンパク質によって変わることは先ほど述べたとおりですが、水産学では色素タンパク質の含有量で「赤身魚」と「白身魚」を分類しています。
色素タンパク質のヘモグロビン、ミオグロビンが100gにつき10 mg以上含まれているのが「赤身魚」。10 mg未満を「白身魚」として分類しています。
水産学上の定義から言えば、サンマは赤身になります。サンマは身の色が白っぽいため、白身魚と思われやすいですが、回遊魚で遅筋の赤身魚になります。ちょっとややこしいのは、サンマは赤身魚ではありますが、背が光るため、寿司の世界では「光り物」として扱われます。
また、ほかに白身と間違われやすい魚にブリがいます。ブリは白っぽい身肉をしているものの、色素タンパク質の量から言えば赤身魚になります。逆に白身魚なのに赤身魚として間違えられやすいのがサーモン。サーモンの身が赤いのは、餌としている甲殻類(小さいエビやカニ、プランクトン)に原因があります。甲殻類はヘマトコッカス藻類を主食とし、この藻の中にアスタキサンチン色素が含有されているため、サーモンの身が赤くなるのです。
水産学上はサンマは赤身
赤身の特徴
回遊魚で色素タンパク質が多い赤身ですが、ミオグロビンとヘモグロビンは鉄分が多く、貧血の予防として効果的です。血液の中のコレステロール値を抑制したり、脳を活発にするDHAとEPAも多く含んでおり、老化対策にも有効と考えられています。
また、赤身の特徴としては、「血合い」の多さがあげられます。血合いは、魚の背と腹の間にある赤色筋繊維が固まった部分のことです。赤身と白身、両方とも血合いがありますが、赤身の方が血合いの量が15%以上と多く、白身は10%未満と少なくなっています。
血合いは鮮度を見分ける際に有効です。鮮度が好い状態の時は鮮やかで赤黒い色をしているのが、鮮度が落ちるにつれ黒っぽくなってきます。鮮やかな赤黒い色か、黒ずんだ血合いかで鮮度を見極める一つの基準として活用できます。
赤黒い血合いは一見、体に良くなさそうに思われがちですね。しかし、実際は栄養素がたくさん含まれています。鉄分、アンセリン、ビタミンA、ビタミンDなどを多く持ち、鉄分やビタミン補給に役立ちます。血合いは生のままだと少し生臭いので、煮ものにしたり焼いたして調理すると食べやすくなります。
寿司ネタで扱われる赤身の魚
では次に、寿司ネタで扱われる「赤身」の魚をご紹介します。
寿司ネタの代表的な赤身は、マグロ、カツオ、ブリ、イワシ、サンマ、サバなどがあげられます。先ほど述べたとおり、背が青くて腹の部分が白っぽく光るイワシ、サンマ、サバなどは水産学上は赤身ですが、寿司の世界では光り物として捉えるので混同しないようにしましょう。
マグロ
「赤身」の中でも最も代表的な魚は何といってもマグロ。
マグロは海の中で常に泳ぎ回る回遊性を持っており、大型で肉食の魚。
日本だけでなくアジアや欧米など、世界各地で重要な食用魚として親しまれています。
マグロは部位によって寿司ネタの扱いが変わり、頭に近い腹の部分を「大トロ」、背側の脂肪分が少ない筋肉質の部分が「赤身」、筋肉質でもっちりとした赤身と脂の乗った大トロ」中間にあるのが「中トロ」です。江戸前寿司では、扱っているマグロの質によってその店の「格」が分かると言われるほど重要な赤身の寿司ネタです。
カツオ
春と夏が旬のカツオも寿司ネタで扱われる赤身魚の一つです。
カツオは江戸時代から大変人気があった魚ですが、鮮度が落ちやすいため、当時は刺身で食べるのが主流でした。寿司として食べるようになったのは昭和になってから。ほんのりとした甘みと上品な酸味、爽やかな香りで多くの人から人気があります。春から夏にかけて太平洋を北上する初ガツオ、秋に南下する戻りガツオがあり、戻りガツオは脂がのって濃厚な味わいになっています。
ブリ
白っぽい身肉でとかく白身として間違われやすいブリですが、実際は赤身魚。ブリは出世魚で、関東では「 ワカシ(20cm)→イナダ(40cm)→ワラサ(60cm)→ワラサ(80cm以上)」の順で大きさによって呼び名が変わります。ややこしいのは、関西ではイナダ、ワラサを「ハマチ」と呼んでいたようです。
そして今では、関東でも養殖した小型のブリをハマチと呼ぶようになっています。ハマチもブリは赤身魚の中でもビタミンDが豊富。骨格の形成に有効で特に子供にはおススメの寿司ネタです。脂がたっぷりのったブリは大トロに匹敵するほどの濃厚さでとろけるような味わいが特徴になっています。
赤身だけど「光り物」とされるイワシ、サンマ、サバ
イワシ、サンマ、サバは赤身ではあるものの、寿司業界では光り物として扱われます。光り物は臭味を消すために酢で〆ることが多く、酢〆は手間がかかって技の見せどころとなり、
光り物を食べればその店のレベルが分かるとまで言われているほどです。
ちなみに、よく耳にする「青魚」「青物」は光沢がある青みがかった魚の総称で、水産学上の分類や寿司の世界における光り物とは別で、あくまで実用として便宜上区別している呼び名になります。
回遊するイワシの大群
まとめ
いかがでしたか。今回は寿司ネタの王道「赤身」について紹介しました。
回遊魚である赤身魚の身が赤くなるのは、遅筋である赤筋に含まれる酸素を運んだり蓄えたりする色素タンパク質が原因でした。赤身と白身の区別は色素タンパク質の含有量で決まり、一見白身のようでも赤身であるブリや、反対に赤身と思われがちな白身魚にはサーモンがいましたね。色素タンパク質のミオグロビンとヘモグロビンは鉄分が豊富で貧血予防にも効果的。また、赤身にはコレステロール値を抑制するDHAとEPAやビタミン群も多く含まれていてとても身体に好い寿司ネタです。
分類学上は赤身でも、イワシ、サンマ、サバのような寿司の世界では光物とされる寿司ネタもありましたね。赤身と白身、光り物、これらを正しく認識することで寿司の世界に対する知識を深めることができ、より一層寿司を楽しめます。それぞれ異なる旨さがありますが、お互いの魅力を比べながら味わってみると、いつもと違った寿司の世界が楽しめて面白いかもしれませんね。